閃輝暗点は片頭痛の視覚前兆として有名です。
芥川龍之介は、短編小説「歯車」の中で、半透明の歯車が回りながら視界を塞いでいきそれがおさまった後、激しい頭痛に襲われ一眠りして回復する自身の体験を詳しく描写しています。
これは下記の国際頭痛分類第2版の「1.2前兆のある片頭痛 migraine with aura」に合致します。
https://www.jhsnet.net/guideline_GL2013.html
表の「1.2.1典型的前兆に片頭痛を伴うもの」の患者さんは脳外科を受診します。
一方、「1.2.3典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの」に属する頭痛を伴わない閃輝暗点の患者さんは眼科を受診します。https://meisha.info/archives/965
前述の表は慢性頭痛の診療ガイドライン2013https://www.jhsnet.net/guideline_GL2013.htmlに記載されています。
このガイドラインには[CQ: Ⅱ-1-2:片頭痛はどのように診断するか]の項に閃輝暗点の診断のポイントが下記のように記載されています。
1. 陽性徴候(きらきらした光、点、線)と陰性徴候(視覚消失)が可逆性である
2. 視覚症状は同名性(両眼の視野の同じ部位にみられる)
3. 視覚症状は5分以上かけて徐々に進展するが持続時間は60分以内
これらの点に注意して一過性の視覚異常を訴える患者さんの話を聴くと、閃輝暗点は意外に多いことに気づきます。
閃輝暗点の原因に関して多くの眼科医は[脳の血管収縮とその後の拡張]と思っています。
学生向けの眼科教科書にも[脳血管の一過性の痙攣]、[脳内血管の機能的変化]などと記載されています。
これは1940年代にWolffが提唱した[片頭痛血管説]による説明で、前兆が血管拡張性薬剤の投与で消失し,その後の拍動性頭痛が血管収縮性薬剤(エルゴタミン)により改善するなどの事実を根拠にしています。
しかしMRI研究から、片頭痛の視覚前兆である閃輝暗点は、脳血管の収縮ではなく、後頭葉表面の異常な興奮と抑制の波である大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)によることが明らかになりました。
Hadjikhani N et al.: Mechanisms of migraine aura revealed by functional MRI in human visual cortex. Proc Natl Acad Sci U S A 98:4687-92.2001
前述のガイドラインにも[片頭痛の前兆は皮質拡延性抑制(CSD)による現象と考えられる]という記載がグレードAのエビデンスで記載されています(CQ: Ⅱ-1-4-1)