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眼トキソプラズマ症の治療薬

眼トキソプラズマ症https://meisha.info/archives/1059の治療薬には葉酸合成阻害薬マクロライド抗菌薬があります。

葉酸合成阻害薬

海外ではスルファジアジンsulfadiazineとピリメタミンpyrimethamine(商品名:ダラプリムDaraprim) の併用療法が眼トキソプラズマ症治療のスタンダードです。
Bosch-Driessen LH et al.: A prospective, randomized trial of pyrimethamine and azithromycin vs pyrimethamine and sulfadiazine for the treatment of ocular toxoplasmosis. Am J Ophthalmol 134:34-40.2002
いずれも葉酸の代謝経路に働くことで抗原虫活性を発揮します。
葉酸は体内で還元を受けてジヒドロ葉酸(DHF)からテトラヒドロ葉酸(THF)に変換されてDNA合成に必要な補酵素として働きます。
ヒトの細胞は葉酸を生合成できないので食餌から摂取しますが、細菌や原虫は細胞内でパラアミノ安息香酸(PABA: para aminobenzoic acid)とプテリジン(pteridin)からジヒドロプテロイン酸を経てDHFを合成します。
サルファ剤であるスルファジアジンはこの経路のジヒドロプテロイン酸合成酵素を阻害することで原虫を葉酸欠乏に追い込みます。

DHFはジヒドロ葉酸還元酵素Dihidrofolate reductase DHFRの働きでTHFになりますが、ピリメタミン、トリメトプリム、メトトレキセートはDHFRを阻害します。
ただしヒトのDHFRは細菌や原虫のDHFRとは異なり、ピリメタミンやトリメトプリムによるDHF還元阻害作用を受けにくいのでヒトでの治療薬として成立します。

日本国内で使用できる葉酸合成阻害薬

海外でのスタンダードであるスルファジアジンとピリメタミンの内服薬は国内では未承認です。
代替薬としてST合剤(バクタ、バクトラミン)が使用されます。
STはsulfamethoxazoleスルファメトキサゾールとtrimethoprimトリメトプリムの頭文字です。
トリメトプリム換算5 ㎎/kgを1日2回静注または経口で用いるとされています。(バクトラミン1錠中:トリメトプリム80mg、スルファメトキサ ゾール400mg)http://dcc.ncgm.go.jp/prevention/resource/resource01.pdf
ニューモシスチス肺炎(以前はカリニ肺炎と呼ばれた)の治療薬としてよく使用されるST合剤ですがトキソプラズマ症では適応外使用になります。

マクロライド

葉酸合成阻害薬以外に海外ではクリンダマイシンアジスロマイシン、国内ではアセチルスピラマイシンが使用されます。
これらの薬はマクロライド系の抗菌薬で、細菌に特有の50Sリボソームに結合して蛋白合成を阻害します。
いずれも国内では適応外使用ですが、妊娠中の女性の先天トキソプラズマ症発症予防薬として、スピラマイシンが2018年に国内で初めて承認されました。

マクロライドの作用機序

しかしここで疑問が生じます。
トキソプラズマ原虫はヒトと同じ真核生物の病原体です。
原核生物である細菌に特有の50Sリボソームに作用して蛋白合成を障害するマクロライドが、どうして真核生物の原虫に効果があるのでしょうか?https://meisha.info/archives/1031
その答えとしてトキソプラズマに存在する細胞小器官であるアピコプラスト でのタンパク合成阻害作用が推測されています。

アピコプラスト

アピコプラストはアピコンプレクス門に分類される原虫に共通してみられ、進化の過程で原虫に取り込まれた葉緑体類似の色素体です。
光合成の機能はありませんが、脂肪酸の合成などに関わっていて生存に必須の細胞内小器官です。
松原立真. トキソプラズマ. In: 永宗喜三郎他, ed. 寄生虫の話 朝倉書店.48-53. 2020
アピコプラストでは細菌と同じ50Sリボソームで蛋白が合成されるので、これがマクロライドの標的であることが推察されています。
Lee Y et al.: Chemistry and biology of macrolide antiparasitic agents. J Med Chem 54:2792-804.2011
https://e-mr.sanofi.co.jp/-/media/EMS/Conditions/eMR/products/spiramycin/downloads/spc_summary2020_01.pdf