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網膜色素上皮裂孔(RPE裂孔)

網膜色素上皮剥離 (PED)では網膜色素上皮 (RPE) がブルッフ膜から剥離してドーム状の隆起を示します。https://meisha.info/archives/1219
剥離したRPEに裂け目ができて拡大すると、RPEで被覆されないブルッフ膜が露出する網膜色素上皮裂孔(RPE 裂孔)となります。
多くは血管性PED(vascularized PED)https://meisha.info/archives/1219の原因となった新生血管周囲の組織が収縮することで、反対側のエッジに裂け目ができてこれが内側に捲れ込むことで生じます。

RPE裂孔が中心窩に及ぶと著しい視力低下の原因になり、絶対暗点を示すこともあります。
Iijima H, Gohdo T: Visual field change in eyes with retinal pigment epithelial tear. Retina 19:198-203.1999

RPE裂孔の原因

RPE裂孔は誘因なく特発性に生じることもありますが、滲出型加齢黄斑変性にみられる血管性PEDで、抗VEGF薬硝子体注射の治療後に生じることが報告されています。
篠島亜里: 抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔. あたらしい眼科 33:67-8.2016
Heimes B et al.: Retinal pigment epithelial tear and anti-vascular endothelial growth factor therapy in exudative age-related macular degeneration: Clinical Course and Long-Term Prognosis. Retina 36:868-74.2016

眼底写真では病変部で脈絡膜血管の透見が亢進し、眼底自発蛍光(FAF)撮影を行えば、境界鮮明な三日月あるいは半月形の低蛍光像を示しますhttps://meisha.info/archives/342
自発蛍光はRPEのリポフスチンに由来しますが、これがRPE裂孔部で欠如するためです。

症例:81歳男性

8カ月前、左眼の中心暗点を訴えて前医を受診し、滲出型加齢黄斑変性として毎月3回、その後2回、計5回の抗VEGF薬硝子体注射を受けたものの症状が改善しないとして大学病院眼科を紹介されてきました。
前医初診時の左眼矯正視力は0.7、大学病院紹介時の視力は0.5でした。

紹介時所見

図左の左眼の眼底写真では中心窩のすぐ耳側に垂直ラインがみられ、その耳側の脈絡膜血管が透見されます。
図中央の自発蛍光像ではその部位の自発蛍光は欠如して無蛍光です。
図右の水平断面OCTでは3本の黄色の矢印の部位でRPEラインが途切れるRPE裂孔の像です。

RPE 裂孔の発症時期

RPE 裂孔をいつ発症したのか、患者さんの自覚では明らかではなかったので、前医での治療経過中の写真を送ってもらいました。
図右4回目の注射後の写真には、中心窩耳側の垂直線(矢印)が確認されて、その耳側の脈絡膜血管が透見されます。
しかし図左の前医初診時にはそのような変化はみられないので、抗VEGF薬を注射した最初の4回のうちの、いずれかの後にRPE 裂孔を生じたと考えられました。