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眼運動神経麻痺の経過と手術判断

眼運動神経麻痺は眼球運動に関わる脳神経3, 4, 6番の麻痺による眼球運動障害です。https://meisha.info/archives/1114
複視、頭位異常、眼瞼下垂などの症状がみられます。
原因として血管性、外傷性、頭蓋内病変及びその術後性先天性などがあります。

自然経過での回復

このうち血管性外傷性では、無治療、自然経過での回復がよくみられます。
図は突然左の眼瞼下垂(図右下)を発症した糖尿病の79歳男性です。
左上まぶたを挙上すると左眼の内転、上転、下転が障害されていましたが、散瞳はみられません。
MRIで脳動脈瘤など頭蓋内病変が否定され、糖尿病による血管性動眼神経麻痺と診断されました。https://meisha.info/archives/1093

特別の治療なく経過をみたところ、6か月後には眼瞼下垂も複視も消失しました。
図上の初診時のヘスチャートは、図下のように6か月後にはほぼ正常になっています。

手術治療

残念ながら上記の例のように回復して複視が消失する例ばかりではありません。
経過観察で回復がみられないか、あるいは不十分で複視が残存する場合には、斜視手術を検討します。
ただし回復途中で手術すると、術後の眼位変化で手術効果が過矯正になる恐れがあります。
そこで手術を行う前の6カ月間、眼位ズレに変化がないことを確認します。
具体的には2カ月ごとのヘスの記録を並べて、9点の中心位置のズレが不変であることを確認します。
図の左右は左眼の外転神経麻痺の経過中の2回のヘスです。
マス目は5度なので中心のずれは12度から7度に変化していて、回復途中にあり、この状態では手術はできません。

膜プリズムの利用

眼位の安定を確認する6か月は、複視を自覚する患者さんにとってつらく長い期間です。
その期間中は眼帯で片目を隠すケースもありますが、眼鏡に貼る膜プリズムを利用すれば、両眼開放の生活を続けることができます。
しかも膜プリズムメガネ装用で術後の状態が経験できます。
手術では9方向のすべてで複視が消失する訳ではなく、正面とやや下方視で複視が消失することを目標にします。
それ以外の側方視や上方視では通常、複視が残存します。
膜プリズムメガネ装用 にてそのことをあらかじめ体験して、術後の状態を理解しておけば、手術効果に関してトラブルになるリスクが減ります。