強度近視眼では中心窩の網膜下、すなわち視細胞と網膜色素上皮RPEとの間に少量の出血が見られることがあり、単純黄斑出血と呼ばれます。https://meisha.info/archives/1437
近視性脈絡膜新生血管myopic CNVからの出血とは異なり、自然吸収すると通常は正常に近い矯正視力に復帰する予後の良好な病態です。
図は33歳女性の左眼で LV = (0.7 x -16D)。FA/IAではCNVは確認されず、無治療経過観察で5カ月後には出血は吸収して矯正視力は1.0に回復しました。
一方、網膜静脈閉塞症(BRVO、CRVO)や滲出型加齢黄斑変性、あるいは網膜細動脈瘤などで生じる中心窩の網膜下出血は量が多いため視力予後が不良になることがあります。
黄斑浮腫を示すBRVOやCRVOは抗VEGF薬の硝子体注射で浮腫が吸収すると、通常は比較的良好な矯正視力を回復します。
しかし治療前のOCT画像で網膜下血腫がみられる場合は、黄斑浮腫吸収後にOCT像でEZが断裂する視細胞障害のため視力予後が不良です。https://meisha.info/archives/571
図は76歳男性の右眼で、初診時黄斑下に血腫がみられたBRVO黄斑浮腫眼です。矯正視力は0.2で血腫吸収後も0.3にとどまりました。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の疑問(疑問3) 黄斑浮腫ではどうして視細胞が障害されるのか? 眼科 58: 1591-1595, 2016.
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の視力低下機序. 眼科 63: 227-233, 2021.
網膜細動脈瘤破裂やPCVではさらに大量の黄斑部の網膜下血腫を生じます。
数カ月の自然経過で出血が吸収されても、中心窩を含む広い範囲の視細胞委縮のため、大きな中心絶対暗点と0.1未満の高度の矯正視力低下を生じます。
図は網膜細動脈瘤破裂で網膜下出血をきたした高血圧の90歳男性の左眼です。
初診時は分厚い血腫の本体は中心窩上方で、中心窩には白色の濃い網膜下液があり0.5の視力でした。身体が不自由で腹臥位をとれず、他眼が正常だったため経過観察としましたが、2カ月後に網膜下出血が吸収した時点では中心窩は萎縮して0.08の視力でした。