高齢者の眼瞼内反の多くは、下まぶたの縁が角膜側に倒れ込んでまつ毛が角膜に接触するもので、異物感や点状表層角膜症(SPK)を生じます。
下まぶたの皮膚を下方に引っ張り出すと、まつ毛は一時的に角膜から離れますが、瞬きをすると元の状態に戻ります。
皮膚と皮下組織の問題でまつ毛が角膜に接触する先天睫毛内反と異なり、高齢者の下眼瞼内反の主原因は下眼瞼牽引筋腱膜LER: lower eyelid retractor https://meisha.info/archives/1148のゆるみや断裂で、退行性眼瞼内反と呼ばれます。
根治術はLERを瞼板に縫着する下眼瞼牽引筋腱膜縫着術(Jones法)です。
野田実香: 成人の眼瞼疾患. 日本の眼科 92: 38-46, 2021.
この手術は腱膜性眼瞼下垂の手術と同様、皮膚切開して直視下にLERを見つけて瞼板に縫着するため、外来手術で行うにしても、それなりの準備と時間がかかります。
一方、先天睫毛内反や成人の上まぶたの重瞼手術では非吸収糸による埋没縫合手術であるスネレン法がよく行われます。https://meisha.info/archives/589
Jones法に比べてはるかに簡便で、手術というより外来処置の感覚で行うことができます。
欠点は再発しやすいことで、そのため多くの教科書では退行性眼瞼内反の手術法としては取り上げていません。
ただし下記教科書では退行性眼瞼内反に対する手術法の一覧表に、Jones法、Jones変法(Kakizaki法)とともに、短時間で手術を終わらせる必要のある場合の手術法として、スネレン法、すなわち通糸法が掲載されていて、再発がやや多いとされていました。
渡辺彰英: 眼瞼内反症. In: 野田美香 (Eds): 眼付属器疾患とその病理(専門医のための眼科診療クォリファイ10). 中山書店, 東京, 85-90, 2012.
筆者は患者さんに両方の手術を説明した上で、希望されればまずスネレン法を行い、それで無効の場合に改めてJones法を計画することにしています。
図は上に示した80歳女性の左目のスネレン手術後半年の写真です。
スネレン法で内反が再発するのは下図左のように埋没した糸の支えがなくなるためだと考えられます。
一方下図右のように円蓋部付近の結膜下の結合組織が比較的しっかりしているケースでは、埋没縫合糸がLERの代わりの働きを維持するので手術効果が持続するものと考えられます。