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AZOORの日本語名

AZOOR は1993年にJohn Donald Gassによって初めて報告された網膜外層の原因不明の炎症性疾患です。
病気の詳細はその後の経過観察結果をまとめた下記論文に記載されています。
Gass JD et al: Acute zonal occult outer retinopathy: a long-term follow-up study. Am J Ophthalmol 134:329-39.2002

病気の名称

AZOOR https://meisha.info/archives/3548Acute zonal occult outer retinopathy の頭文字
Acute:急性
Zonal:帯状
Occult:潜在性
Outer Retinopathy:網膜外層症

を逐次的に置き換えた[急性帯状潜在性網膜外層症]が日本語病名になっています。
この中でZonalを帯状と訳すことに違和感を感じる眼科医は少なくないと思います。

Zonal:帯状 という訳語の可否

帯状というとウィルス感染症である皮膚の帯状疱疹を思い浮かべます。
肋間神経の走行に沿って腹部の皮疹が帯のように細長く並ぶ様子は、帯状の命名にふさわしいと納得します。

一方、AZOOR の occult(潜在性)な病変は、発症早期の眼底検査では明らかでありません
ただし一部の症例では時間の経過とともに萎縮と色素沈着を伴う網膜色素変性様の病変が明らかになります。
図は22歳のときに光視症を伴って急速に左眼が見えなくなったというエピソードのある女性で、36歳時に矯正視力は1.2/0.04で片眼性網膜色素変性として紹介されました。
本人の自覚では22歳の発症後、見え方に悪化はなくAZOORと診断しました。(AZOORの視力は通常良好とされていますが、不良例も少数報告されます)
そして病変の広がりは、図中央の眼底自発蛍光像にみられるように帯状ではなく、区域状あるいは区画状という訳語が適切です。

AZOORのzone病変

眼底の平面像は帯状ではありませんが、OCTでのEZ https://meisha.info/archives/735の異常を示す網膜外層の断面像が帯状だとする意見があります。
しかしGassが命名した当時、OCT所見は得られておらず、論文中の下記記載のごとくzonalが断面像ではなく平面的な病変の広がりを形容していることは明らかです。
Visual loss in AZOOR is characterized by one or more episodes of acute dysfunction, and in some cases, death of retinal receptor cells in one or more zones of one or both eyes.
(上記論文abstractのconclusionに記載、これ以外にも論文ではzoneという単語が頻出します。)

日本語病名:急性帯状潜在性網膜外層症

“zone”はa demilitarized zone:非武装地帯;a residential zone:住宅地区;a no-parking zone 駐車禁止区域、など地帯、地区、区域という日本語訳が適当です。
その形容詞形であるzonalの日本語訳としては帯状よりも区域状(あるいは区画状)が適切なのではないでしょうか?
しかし2019年に日本眼科学会雑誌に掲載されたAZOORの診断ガイドラインや、日眼用語集第6版下記)でも急性帯状潜在性網膜外層症とされているので変更されることはないでしょう。
近藤峰生 他: 急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン. 日本眼科学会雑誌 123:443-9.2019