前房内細胞や硝子体混濁など、ぶどう膜炎様の所見を示す眼内悪性リンパ腫はステロイド治療(点眼、テノン嚢下、内服)に反応しないため、仮面症候群masquerade syndromeと呼ばれます。
眼瞼の脂腺癌で腫瘤が小さいと霰粒腫と誤られて霰粒腫切開術を繰り返されることがあります。
また腫瘤を形成せず上皮表面を拡がるpagetoid spreadは慢性結膜炎や眼瞼縁炎などと誤診されていることがあります。https://meisha.info/archives/2474
そのような誤診のため[脂腺癌は眼瞼病変における仮面症候群]と評されます。
林暢紹 脂腺癌、知っておきたい眼腫瘍診療(眼科臨床エキスパート).医学書院.233-236. 2015
1年前から左の下眼瞼のできものに気づきA眼科で霰粒腫の診断で穿刺されていました。
(霰粒腫の穿刺:J088, 45点は注射針などで霰粒腫を穿刺して内容の脂質を圧出する処置で、切開して内容の脂質を排出する霰粒腫摘出術:K214, 700点とは異なります。)
その後糖尿病の眼底精査目的で受診したB病院眼科にて脂腺癌が疑われ、大学病院眼科を紹介されました。
左下眼瞼の下涙点の外側の瞼縁に黄白色の隆起病変がみられ睫毛は脱落しています。
眼瞼結膜側にも隆起していて、その中央部を外来で楔状に切除生検した結果、脂腺癌と診断されました。
皮膚科に相談後、全麻下の腫瘍切除と眼瞼再検術を形成外科にて施行しました。
下涙点からテフロン針外套を挿入して涙小管を確保した後、マーキングした残存腫瘍を5mmのマージンで眼瞼全層にわたり切除。
硬口蓋粘膜を口蓋骨まで切開して25x10mmのフラップとして採取。https://meisha.info/archives/4817
頬部皮膚フラップ(Imre flap)を挙上して、その内面に硬口蓋粘膜フラップを裏打ちして、外側は残存瞼板に、内側は内眼角靭帯に縫着して眼瞼後葉として再建、皮弁を縫着して下眼瞼再建を終了しています。
5年後まで皮膚科にてフォローして、再発転移ありません。
この症例では硬口蓋粘膜移植による眼瞼再建術で脂腺癌を治療できました。
しかし他院眼科で1年前に霰粒腫とされた時点で正しく脂腺癌の診断ができていれば、もう少し負担の少ない手術治療で済んだ可能性があります。
霰粒腫と紛らわしい脂腺癌を早期に疑って生検することの重要性を示唆します。