黄斑前膜(または網膜上膜ERM: epiretinal membrane)は、表面に張った増殖膜が収縮することで黄斑部の網膜にしわができる病気で、主要な症状はものがゆがんでみえる変視症です。https://meisha.info/archives/1863
ERMの多くは後部硝子体剥離を契機として発生する特発性ERMで中高年に多くみられます。
それ以外に網膜の血管病や網膜裂孔などによる続発性ERMと手術やレーザー光凝固後に発生する医原性のERMがあります。
Wickham L, Gregor Z. Epiretinal membrane. In: Ryan SJ, ed. Retina 5th ed: Elsevier; v. 3.1954-61. 2013
VPT: Vasoproliferative tumor of the retinaは眼底下耳側周辺にみられる網膜血管腫様病変です。
出血や黄斑浮腫などとならんでERMを生じて病気に気づかれることがあります。https://meisha.info/archives/4961
1か月前から左眼の変視症を自覚して、大学病院眼科を紹介されました。
両眼-9D程度の強度近視で矯正視力は1.2/0.4と左眼で不良でした。
左眼の黄斑部には白濁した増殖膜が張っていて、OCTでは網膜層構造が波打ってゆがみ中心窩では著明に肥厚しています。
後部硝子体剥離PVD: posterior vitreous detachmentは生じていませんが、中心窩の上下で後部硝子体膜は一部剥離しています。
眼底耳側周辺にFAで造影される白色隆起がみられ、VPTと考えられました。
1か月半後、左眼の飛蚊症が強くなり、受診したところ矯正視力は0.4→0.7と改善し、OCTでは網膜の層構造は正常に近い状態に回復していました。
視神経乳頭側の後部硝子体膜とともに増殖膜が自然剥離したためと考えられました(図左)。
しかしその後、耳側のVPTをレーザー光凝固した後に、再び変視症が増強しました。
黄斑部網膜表面に残った増殖膜が再増殖したためと考えられました(図右)。
初診時のERMはVPTに伴う続発性ERM、再発したERMにはVPTへのレーザー光凝固による医原性ERMの要素が加わったと判断されました。