• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

ボトックス注射による眼瞼下垂

A型ボツリヌス毒素

目を開けていられなくなる眼瞼けいれんは瞬目の制御異常が本態の眼瞼の局所ジストニアです。
https://meisha.info/archives/602
その治療の中心はA型ボツリヌス毒素の製剤であるボトックス(グラクソ・スミスクライン社の商品名)の眼輪筋への注射です。
神経筋接合部ではシナプス小胞に蓄えられたアセチルコリン(Ach)が神経終末から放出されます。
A型ボツリヌス毒素はその際のシナプス小胞と細胞膜の膜融合に関わるSNAP-25というSNAREタンパク質を切断することで神経筋伝達を遮断して過剰な眼輪筋の収縮を抑制します。

ボトックスの効果は注射後2-3日で出現し、1-3週でピークに達し、3-6か月で効果が消失します。
眼瞼けいれん以外に片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢/下肢痙縮、原発性腋窩多汗症に適応があります。
副作用として眼瞼下垂、兎眼、複視などがあります。

症例:50代の女性

甲状腺機能亢進症の治療として放射性ヨード療法を受けた後にまぶたの異常と複視を訴えた患者さんが内科から眼科に紹介されてきました。
症状を自覚してから10日後の眼科受診時には複視は消失していましたが、両目の眼瞼下垂がみられました。

甲状腺眼症では瞼板筋の緊張や眼瞼挙筋の伸展不全のために眼瞼後退瞼裂開大がみられ、眼瞼下垂は逆の症状です。
ただし眼瞼下垂が主症状の重症筋無力症は自己免疫疾患である甲状腺眼症に合併しやすいので、重症筋無力症を疑いました。
アイステストhttps://meisha.info/archives/1083を行いましたが陰性で抗アセチルコリン受容体抗体も陰性でした。
そこでさらに甲状腺関連以外の病歴を尋ねたところ、患者さんが何気なく語った話でぴんときました。
[関係ないかもしれないと思い眼科初診時にお話ししなかったのですが、目の症状に気づく2週間前にボトックス治療を受けました。眉間の間のしわが気になるので美容外科で年に2-3回ボトックス注射を眉間部にしてもらっています。]

美容外科でのボトックス注射による眼瞼下垂

眼科や神経内科、整形外科で使用するボトックスは美容外科でも使用されていて眉間と目尻の皴取りに対して適応があります。
患者さんの眼瞼下垂は眉間部に注射したボトックスが眼瞼挙筋と上直筋などに作用して、注射の効果がピークに達する2週間後くらいに眼瞼下垂と眼球運動障害による複視を自覚したと考えられました。
時間がたてば改善することを説明して安心してもらい経過観察したところ、1か月後には目が開きやすいようになったと言われました。

しかし4カ月後の写真では眼瞼下垂は残っていました。
ただし患者さんの自覚は明らかに改善していて、そのことは重瞼線の幅(図の赤点線の間の距離)が短縮していることでも確認できました。

実はこの時点でさらに尋ねたところ、5年前までの25年間ハードコンタクトレンズを使用していたことがわかりました。
元々コンタクトレンズによる腱膜性眼瞼下垂https://meisha.info/archives/1083があったところに、ボトックス注射の副作用でこれがさらに増強したというわけです。
改めて腱膜性眼瞼下垂に対する挙筋短縮術を計画しました。

美容外科でのボトックス注射

美容外科では眉間、目尻の皴取り以外に腕脚痩せ、ガミースマイル治療、多汗症治療などにもボトックス(アラガン社のボトックスビスタなど)が使用されています。
日本美容外科学会(JSAPS)が行った2019年の調査では非外科治療の160万件の2割弱程度の30万件がボトックス治療であったと報告されています。
https://www.jsaps.com/jsaps_explore.html#:~:text=%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%AF%BE%E8%B1%A13%2C656%E9%99%A2%E4%B8%AD,%E3%82%88%E3%82%8A%E5%9B%9E%E7%AD%94%E3%82%92%E5%BE%97%E3%81%9F%E3%80%82&text=%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%9B%9E%E7%AD%94521%E9%99%A2%E5%88%86,46%2C821%E4%BB%B6%E3%81%A7%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82