• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

重症筋無力症

眼瞼下垂の原因と発症様式

眼瞼下垂は高齢者に比較的よくみられる目の所見です。
しかしクモ膜下出血を起こす脳動脈瘤や重症筋無力症など生命を脅かす病気のサインのこともあるので、診察した眼科医はまずその原因を明らかにすることが大切です。https://meisha.info/archives/1083
その際、発症の時間経過は診断の参考になります。
高齢者の片目に急性あるいは突発性に発症する眼瞼下垂では、糖尿病などによる血管性動眼神経麻痺や脳動脈瘤による動眼神経麻痺が疑われます。https://meisha.info/archives/1093
両目の眼瞼下垂で、先天性なら外眼筋線維症(CFEOM)https://meisha.info/archives/1158の可能性があり、後天性で進行性であれば慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)https://meisha.info/archives/1591を考えます。
一方急性あるいは亜急性の発症で症状に動揺がある場合に考慮すべきなのが重症筋無力症(MG)です。

自己免疫疾患

MGには眼筋型と全身型があり、眼筋型MGの一部は経過とともに全身型に移行します。
横紋筋の神経筋接合部のシナプスでは、アセチルコリン Ach: Acetylcholineがその受容体AchRに結合して筋収縮を生じます。
放出されたAchはただちにコリンエステエラーゼ ChE: Cholinesteraseで失活します。
MGの多くはAchRに対する自己抗体である抗AchR抗体を生じる自己免疫疾患で、AchRを占拠してその数が減少するために筋力が低下します。
MG症例の中には抗AchR抗体ではなく抗MuSK抗体によるものも知られていますが、眼筋型MGではまれです。

MGの診断

MGはテンシロンテストによって診断されます。
テンシロンは塩酸エドロホニウムの商品名では日本ではアンチレックスという商品名で入手します。
これはAchを分解するChEの阻害剤(抗コリンエステラーゼ剤)です。
その作用は可逆性で短時間作動性のため、静注すると1-2分で効果が表れ、シナプス間隙のAch濃度が一時的に上昇します。
そのため抗AchR抗体によってAchRの数が減少していても、増加したAchによって信号が増強するため眼瞼下垂の症状が改善します。

アイステスト

ChEは低温で失活します。
そのためまぶたを保冷剤で冷やすことでChEの阻害剤によるテンシロンテストの代用になります。
これはアイス(パック)テストと呼ばれ、タオルでくるんだ保冷剤を片目のまぶたの上に2分間接触させ、眼瞼下垂の改善を調べます。
テンシロンテストでは検査の結果が両目に現れるので、注射前の写真と比較する必要がありますが、アイステストでは検査したまぶたの上がり具合を反対側の目と比較できるので、検査結果の判定も容易であるというメリットがあります。