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ホルネル症候群とアプラクロニジン点眼

交感神経の麻痺によって患側眼の縮瞳、眼瞼下垂、瞼裂狭小を示すホルネル症候群https://meisha.info/archives/2939の診断にはアプラクロニジン点眼試験が行われます。
前久保知行. Horner症候群. 眼科 2021;63:1437-1441.

アプラクロニジン

アプラクロニジン(商品名:アイオピジン)交感神経α2受容体作動薬で、レーザー虹彩切開https://meisha.info/archives/2058YAGレーザー後嚢切開https://meisha.info/archives/861の際の眼圧上昇を防止します。
しかし平滑筋を収縮させるα1受容体作用も少量あって、このα1作用が弱いことがホルネル症候群の診断に利用されます。

瞳孔散大筋のα1受容体

瞳孔散大筋にはα1受容体が発現していて、交感神経節後(第3)ニューロンのシナプス終末から放出されるノルアドレナリンが結合すると、筋が収縮して散瞳します。
しかしアプラクロニジンのα1作用は弱いため、正常の目ではほとんど散瞳しません。
一方、節後ニューロンが麻痺しているホルネル症候群の目では、α1受容体の数が増えているためアプラクロニジン点眼に反応して散瞳します。
その結果、患側の瞳孔のほうが大きくなる逆転現象がみられ、これが診断根拠になります。

徐神経性過敏denervation supersensitivity

この現象は徐神経性過敏denervation supersensitivityで説明されます。
軸索切断などによって麻痺を生じた神経の神経終末のシナプスでは、シナプス間伝達物質(この場合はノルアドレナリン)が枯渇するため、効果器官(この場合は瞳孔散大筋)でのシナプス後膜において、受容体(この場合はα1受容体)の数が増加します(upregulation)。
その結果、少量のアゴニスト(ノルアドレナリンやアプラクロニジン)で過剰な効果を生じる過敏性がみられることになります。
Hall JE. ガイトン生理学、原著第1版: エルゼビアジャパン p703, 2018.

フェニレフリン(商品名:ネオシネジン)による過敏性試験

徐神経性過敏瞳孔散大筋だけでなく瞼板筋でもみられ、選択的α1刺激薬である5%ネオシネジン点眼薬(一般名:フェニレフリン)を1%に希釈して使用します。
ホルネル症候群では点眼後5-10分で患側の眼瞼挙上がみられます。
また両眼に点眼した60分後には患側>健側の瞳孔径の逆転が見られます。
石川均. 瞳孔、調節の異常. In: 根木昭, ed. 眼科プラクティス5これならわかる神経眼科2005: 280-285.
大野新治. Horner症候群. In: 若倉雅登, ed. 新図説臨床眼科学講座第8巻、神経眼科: メジカルビュー社, 1999: 92-95.

1%ではなく20倍に希釈した0.25%で判断するとの記載もみられます。
向野和雄. [神経眼科入門シリーズ97] 眼瞼3、代表疾患・診断・治療. 神経眼科 2012;29:340-357.
徐神経性過敏を利用した点眼試験は瞳孔緊張症(Adie瞳孔)に対する低濃度ピロカルピン点眼試験にも関わっています。