• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

身体症状症

心因性視覚障害

学校での検査で裸眼視力が不良とされて眼科を受診する小児の中には、明らかな器質的異常がないのに検査では矯正視力が不良な心因性視覚障害がたまにみられます。
心因性視覚障害では眼球や視路に視機能を障害する器質的異常はありませんが、心理的ストレスなどのために検査では矯正視力が不良だったり視野が狭かったりします。https://meisha.info/archives/1188
しかし検査で視力や視野が不良でも、患者本人は授業や日常活動などで不調を訴えることありません。

詐病、作為症、身体症状症

一方、器質障害がないのに症状を訴えることは、一般には患者さんがうそをついている仮病とされ、表の3つに分類されます。
1. の詐病では本人が、うそをついていることもその理由もともに認識しています。
2. の作為症(虚偽性障害)はミュンヒハウゼン症候群とも呼ばれ、うそをついている認識はありますが、他者からの関心や同情を得たいというその理由を本人は自覚していません
3. の身体症状症(身体表現性障害)ではうそをついている自覚のない点で前2者とは異なり、身体症状や健康への不安を訴えます。
佐藤寿一: 身体症状症の患者への対応. 現代医学 69:109-10.2022
https://www.aichi.med.or.jp/webcms/wp-content/uploads/2022/06/69_1_p109-110.pdf

症例:58歳女性

3年前から羞明があり、昼盲のため雨天のほうが晴天よりもみやすいと感じていました。
見えにくさは進行性に悪化すると感じるのに眼科診療所では明確な説明がないため、A総合病院の眼科を受診しました。
両眼とも-1.0D程度の近視で矯正視力は0.4/0.4でした。

眼底には左目の下方眼底に先天性網膜色素上皮肥大CHRPE https://meisha.info/archives/2885と考えられる大きな萎縮病変がみられましたが、視力には無関係です。

黄斑部の眼底自発蛍光、OCTには異常なく、左の30-2視野ではCHRPEに相当する暗点を認めましたが中心10-2視野は両眼とも全く正常で、中心窩閾値は35/36dBと良好です。
全視野ERGで錐体系杆体系反応は正常でPanel D-15テストもパスし、眼底正常タイプの錐体ジストロフィは否定的でした。https://meisha.info/archives/3405
また小学生の頃、視力低下を指摘されたこともないので弱視も否定されます。

視力値の変動

残るはオカルト黄斑ジストロフィくらいかと考え、多局所ERG検査のできる施設に紹介を考えていたところ、以前の眼科医院で測定したこれまでの視力値の記録を見せてくれました(図)
年によって視力の値は大きく変動していて一貫性がありません

心療内科での経過

そこで、身体症状症を疑い心療内科での診察を受けてもらいました。
パーソナリティ検査を受けて、抑鬱、不安、緊張、睡眠障害を指摘され、身体症状症の可能性が高いとして、支持的精神療法、認知療法などを行う予定とのことでした。