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ERG検査の意義

ERGの原理

ERG: Electroretinogram(網膜電図)は光刺激に応答する網膜の電気的な反応です。
角膜、水晶体、硝子体を通過して入射した光は網膜の一番奥にある①視細胞で受容され、その情報は②双極細胞などに送られてさらに③網膜神経節細胞の軸索が集まった視神経で脳に伝えられます。

①の視細胞や②の双極細胞など網膜内層の神経細胞は、光照射に対して細胞内電位を変化させ、その総和がERG反応として記録されます。

臨床ERGの意義

眼科臨床で行われるERG検査の意義は大きくわけて、①網膜視細胞の広範な障害の検出と②ERGが特徴的な変化を示す特殊な病気の診断の2つです。

①網膜視細胞の広範な障害

表に示す3つの病気はいずれも網膜全体で視細胞が死滅脱落する病気です。
網膜色素変性の目では視力が良好であっても、視細胞は中心窩付近のわずかな範囲に残存するのみhttps://meisha.info/archives/735なので、視細胞全体の状態を反映するERGは、平坦な消失型波形になります。

眼球鉄症は外傷によって眼球内に留まった鉄片由来の鉄イオンが網膜毒性を発揮するためにhttps://meisha.info/archives/3004、受傷後十年以上を経過して網膜色素変性類似の変化を示すものです。
網膜全剥離では網膜色素上皮との連絡が絶たれた視細胞がアポトーシスによって死滅するために消失型ERG波形を示します。白内障や硝子体混濁で眼底が透見できない際に、消失型のERGは超音波Bモードエコー検査とともに網膜全剥離と診断する根拠になります。

②ERGが特徴的な変化を示す病気

このグループには表のような病気が含まれます。
錐体ジストロフィhttps://meisha.info/archives/750視力低下、羞明、昼盲、色覚異常などの錐体機能が両眼性で進行性に障害されます。
photopic ERGやフリッカーERGと呼ばれる錐体系反応が、杆体系反応に比較して選択的に障害されることが診断の決め手になります。

先天夜盲のうち小口病や白点状眼底https://meisha.info/archives/1873特徴的な眼底変化のため診断は難しくありません。
通常の暗順応でのERG検査ではa波b波がきわめて小さいものの、長時間暗順応すると振幅は増大します。
先天網膜分離症はa波よりもb波が小さくなる陰性型ERGが特徴です。
後天性の網膜疾患でも、網膜中心動脈閉塞症CRAO: central retinal artery occlusionでは網膜内層の虚血によって同じような陰性型ERGがみられます。
急性期にはチェリーレッドスポットを生じますが、1か月も経過すると眼底色調は正常に復するのでERG検査やOCT検査を行わないと診断がつかないことがあります。

ERGに変化がみられない病気

緑内障視神経萎縮では通常のERG反応は正常です。
これは網膜神経節細胞は広範に障害されてもERG反応にほとんど関与しないためです。
また黄斑ジストロフィや加齢黄斑変性などでは中心窩周囲の視細胞が障害を受けますが、範囲が狭いので網膜全体の反応をみるERGでは異常を検出できません。
近藤峰雄 ERG(網膜電図) In: 根木昭, ed. 眼科検査ガイド第2版: 文光堂.612-7, 2016