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黄斑萎縮と偏心固視

正常な目では本などを読む際に、[中心固視]しています。
錐体視細胞が最も高密度に配列する中心窩に、対象物が安定的に結像しているので、小さい文字でも認識でます。
しかし黄斑ジストロフィhttps://meisha.info/archives/3495や加齢黄斑変性など黄斑が萎縮する目では、進行すると中心窩が破壊されて中心暗点となるため、中心固視ができず中心窩周囲の網膜で[中心外固視]することになります。

中心窩周囲網膜の視力

実は中心窩周囲の網膜でも空間的な解像度はかなり高く、5度離れても0.3程度の視力があるとされます(下図左)。
そのため堀口正之氏考按の字多数視力表下図中央と右)を使用すると、中心暗点のある目でも、[中心外視力]は通常の視力検査で測定される[中心視力]よりもかなり良好であることが報告されています。
堀口正之: 字多数視力表とその使用方法. 眼科手術 16:525-8.2003

ただし[中心外固視]は安定しないので、多くの中心暗点の目では比較的良好な[中心外視力]を十分には生かせていません。
一方、[偏心固視]に慣れることで安定した[中心外固視]を獲得している黄斑萎縮の患者さんでは、眼底変化の割に良好な視力を維持しているケースがあります。

症例:Aさん53歳女性

Aさんは2006年、37歳のときに健診で黄斑部の異常を指摘されて以来、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィCACD https://meisha.info/archives/3896として、大学の網膜内科外来16年間フォローされてきました。
両目の黄斑が徐々に萎縮していく経過下図の写真でわかります。

意外に良好な右目の視力

2006年当時、両眼とも1.0だったAさんの矯正視力は、大きな黄斑萎縮となった2022年の53歳時には0.5/0.2でした。
黄斑萎縮が完全に中心窩を巻き込んでいるにもかかわらず、右目の視力が0.5と比較的良好なことはすぐには信じがたいですが、町役場で現役職員として勤務しているAさんは、実際にiPADを使いこなして、事務作業を行っています。

右目での偏心固視

Aさんの右目の中心10-2視野下図右)では中心暗点が上方に移動しているので暗点の下縁で固視していることがわかります。
これを眼底写真(下図左)および眼底自発蛍光像(下図中央)に上下反転して対応させると、https://meisha.info/archives/2885中心窩の上方に位置する円形萎縮巣の上縁で偏心固視していることがわかります。

長年月かけて徐々に黄斑萎縮が進行したAさんは、中心窩周囲の網膜で安定して偏心固視ができるようになった結果、中心窩を失っても0.5の視力を維持して仕事をこなせていると納得しました。
なお眼底直視下で網膜感度を測定できるマイクロペリメータを使用すると、偏心固視の網膜感度が26dBしかないのに1.0の矯正視力が得られたことが報告されています。
杉本一輝 他: 著明な視力改善が得られた強度近視眼の大型黄斑円孔の1例. 臨床眼科 76:1090-5 .2022