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錐体杆体ジストロフィ

錐体系障害優位のIRD

遺伝性網膜疾患inherited retinal diseases: IRDの代表である網膜色素変性retinitis pigmentosa: RP https://meisha.info/archives/726夜盲で発症して、周辺から始まる視野障害両眼対称性に進行します。
これは視細胞のうち主に杆体の障害による症状と所見です。
進行すると錐体も障害されてくるので、RPは杆体錐体ジストロフィと呼ばれることもあります。
RPとは逆に、晴天の屋外など明るい環境での、まぶしさ(羞明:しゅうめい)とみえにくさの症状である昼盲を主症状として、中心部から始まる視野障害後天性の色覚異常を特徴とするIRDがあります。
こちらは錐体の障害が主体ですので、錐体ジストロフィCone dystrophy: CDあるいは錐体杆体ジストロフィCone-rod dystrophy: CRDと呼ばれます。
吉田倫子, 池田康博: 錐体杆体ジストロフィOCULISTA:1-8.2019

CRDとCD

これまでにCRDとCDのそれぞれで多くの原因遺伝子が報告されています。
しかしその多くでは時間経過とともに杆体の障害も生じるので、両者は別個の疾患ではなく同一スペクトラムの病態と考えるのが妥当です。
Gill JS, Georgiou M, Kalitzeos A, et al.: Progressive cone and cone-rod dystrophies: clinical features, molecular genetics and prospects for therapy. Br J Ophthalmol 103:711-20.2019

CRD/CDの診断

CRDまたはCDは全視野ERGで杆体系反応に比較して錐体系反応の振幅が優位に低下することで診断されます。https://meisha.info/archives/3405
ここでいう全視野ERG(full-field ERG)は黄斑局所ERGや多局所ERG https://meisha.info/archives/4711に対する通常のERG検査で、眼底全体に光を当てて網膜全体からの反応を記録します。

症例:38歳女性

1年前から視野の異常、明るい環境での見えづらさ、色の感じ方の異常を自覚していました。
運転中の車線やコンピュータのカーソルが見づらくなり近医眼科を受診したところ、網膜色素変性の疑いとして紹介されました。
矯正視力は1.0/1.0と良好でした。
しかし母親とその兄と妹、それに母方祖母には高度の視力障害があるとのことです。

眼底と視野

RPに特徴的な骨小体状の黒色色素沈着はみられませんが、眼底自発蛍光 AF: autofluorescence 撮影では顆粒状の低蛍光を示す病変は黄斑部から眼底周辺に広がっています。
ハンフリー30-2視野で暗点は中心部に目立ち、一部が30度を超えて周辺に広がります。
完全な中心暗点ではなく10-2視野はリング状で中心窩領域の感度低下は軽く、矯正視力がまだ正常であることが理解できます。

全視野ERG

杆体と錐体の混合反応ではb波振幅が軽度減弱しています。
杆体系反応はわずかの低下を示しましたが、錐体系反応は高度に減弱していました。
以上から錐体杆体ジストロフィと診断しました。
おそらく、母、母方叔父叔母、母方祖母も同じ疾病の進行形で、常染色体顕性(優性)遺伝のIRGと考えられます。
今後進行すると10-2視野の中心部でも感度が低下して、視力障害を生じる可能性が高いことを説明しました。