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Sagging eye症候群 SES に対する内斜視手術

40歳以上の中高年に生じる複視の最大原因sagging eye 症候群SES: sagging eye syndromeです。https://meisha.info/archives/4460
その病型には、遠見での同側性複視を訴える1. 開散麻痺型内斜視と、2. 上下/回旋斜視:cyclovertical strabismus (CVS)があります。https://meisha.info/archives/2717
原因となるプーリー(pulley)の老化による異常https://meisha.info/archives/2709両眼同等なら1. に、非対称で片側性に近ければ2. になります。

治療:プリズムメガネ VS 手術

いずれも複視の像のズレは通常小さいので、回旋ずれが無視できる程度なら、プリズムメガネによる対応が第一選択です。(プリズムは上下や水平の像のズレは矯正できますが、回旋ズレは矯正できません。)
しかし緩徐ではあるものの加齢とともに進行するため、ズレが大きくなった場合には手術を行うことがあります。

内斜視型SESに対する手術

内斜視型のSESに対する内直筋の後転では、後転術量を通常よりも大きくする必要があります。
表の左半は共同性内斜視でのWrightによる斜視角 VS 後転量(mm)の関係です(△はプリズムジオプター)。
たとえば20△の共同性内斜視では両眼の内直筋を3.5mm後転します。

しかしSESでの内斜視ではこれに従うと低矯正になります。
そこでこの表の右半の矢印で示すように、測定された遠見斜視角量を2倍にした量に対応する後転量を採用します。
國見敬子, 後関利明: Sagging Eye Syndromeあたらしい眼科 39:1043-8.2022
すなわち、遠見眼位が15△base outの内斜視のSESでは、15 X 2 = 30 △に対する術量である4.5mmの両眼内直筋後転を行います。
SESではLR-SRバンドの延長/断裂によって外直筋が下方に偏位していますが、外直筋だけでなく内直筋も下垂していることがその理由とされています。
なお、上下複視の場合は下斜視側の目の下直筋付着部に切れ目を入れるgraded vertical tenotomyがすすめられています。
Chaudhuri Z, Demer JL: Graded vertical rectus tenotomy for small-angle cyclovertical strabismus in sagging eye syndrome. Br J Ophthalmol 100:648-51.2016