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複視原因とMRI検査

複視の原因はさまざまで、脳腫瘍や脳梗塞など生命にかかわる疾病も含まれます。
そのような頭蓋内疾患を鑑別する目的で多くの眼科医は脳のMRI検査をオーダーします。
しかし多くは[頭蓋内には異常ありません]との結果で大学病院眼科を紹介されます。

複視の原因別頻度

最近注目されるようになったsagging eye 症候群https://meisha.info/archives/2663も含め、複視の原因別頻度を調べた研究が2020年に報告されました。
Goseki T et al.: Prevalence of Sagging Eye Syndrome in Adults with Binocular Diplopia. Am J Ophthalmol 209:55-61.2020
米国の大きな眼科病院(LA: Stein Eye Institute)で複視の診療を受けた40歳以上の945例の原因別の頻度を調べた結果、円グラフのごとくで右欄凡例は多い順に並べた原因です。

通常の頭部MRIで異常がみられる複視は28%以下

このうち、水平断のみの通常の頭部MRI検査で発見される可能性のものを赤字で示しました
滑車神経麻痺、外転神経麻痺、動眼神経麻痺は合わせて眼運動神経麻痺https://meisha.info/archives/1114と呼ばれ、そのうち、脳腫瘍や脳梗塞はMRIで診断できます。
ただし糖尿病など血管性の眼運動神経麻痺はMRIに異常はみられません。
機械的斜視に含まれる眼窩内腫瘍も通常のMRI検査で発見できます。
また核間麻痺の主な原因である多発性硬化症は白質の脱髄病変がMRIがみつかります。
しかしその合計は28%に過ぎず、したがって複視患者さんのMRI検査を脳神経科に依頼しても、多くは頭蓋内には異常なし]との返事がかえってくることになります。https://meisha.info/archives/3160

眼窩MRIの重要性

一方円グラフ右欄凡例の青字の原因は、冠状断を含めた眼窩MRIを撮影すれば以下のように診断できます。
sagging eye 症候群:眼球後半部位での眼窩冠状断でのLR-SRバンドの菲薄化/伸長と外直筋の下垂https://meisha.info/archives/2717
甲状腺眼症:外眼筋の肥大とT2WIでの高信号https://meisha.info/archives/27
眼窩壁骨折:冠状断で上顎洞に脱出する下直筋像
近視性ET(論文ではheavy eye syndrome):上/外直筋の間から眼球後部が亜脱臼する冠状断像https://meisha.info/archives/2893
これらの合計は45%で、先の28%と合わせると73%となります。
すなわち眼窩冠状断も含めたMRI検査をオーダーすれば複視患者のかなりの部分では原因が推定できることになります。
ただしそのためには眼窩3方向、造影、脂肪抑制、細かいスライスなどきめ細かいMRI撮像条件の指定が必要になります。