両目で見ると相手の顔などが左右、上下に、あるいは傾いて、二つにズレて見える症状は複視と呼ばれhttps://meisha.info/archives/27、多くは眼球運動の障害が原因です。
眼球運動は眼運動神経https://meisha.info/archives/1114と呼ばれる3組の脳神経(動眼、滑車、外転)で制御され、脳腫瘍や脳動脈瘤などで障害されるため、多くの眼科医は複視の訴えがあると脳の断面をみる頭部MRI検査をオーダーします。
図は脳動脈瘤によって起こった左の動眼神経麻痺による眼瞼下垂と水平複視です。
しかし、複視を生じる眼球運動障害は眼運動神経の麻痺以外に、眼窩内の外眼筋やその支持組織の異常などさまざまな原因でも生じます。
表には高齢者に見られる複視の原因のうち比較的頻度の高いものを示しました。
診断の欄の多くは頭部MRIではなく眼窩MRIになっていることに注目下さい。
表のうち複視を生じる甲状腺眼症は、脂肪抑制T2WI (T2 weighted Image: T2強調画像)の眼窩の冠状断MRIで、肥大した罹患筋が白く高信号を示していることが診断の決め手になります。https://meisha.info/archives/27
代償不全型上斜筋麻痺は先天上斜筋麻痺の目にみられ、眼窩冠状断MRIで罹患側の上斜筋の断面積が小さくなっていれば診断できます(上斜筋断面が正常のケースもあります)。https://meisha.info/archives/2121
近視性斜視はやはり眼窩冠状断MRIで眼球後極が上直筋と外直筋上の間から脱臼する像で診断されます。https://meisha.info/archives/1424
Sagging eye 症候群は脂肪抑制なしの眼窩冠状断でみられる引き延ばされたLR-SRバンドの菲薄化断裂で診断されます。https://meisha.info/archives/2663
上記のように複視症例の診療では眼窩の冠状断撮影が重要で、脳動脈瘤や脳腫瘍だけを意識してMRI撮影をオーダーすると脳の水平断のMRIしか撮影されず、原因疾患の存在が見落とされます。
オーダーの際は[脂肪抑制T2WIを含む眼窩3方向MRI]と指示するのがよいと思います。