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非典型の特発性眼窩炎症とIgG4関連眼疾患

特発性眼窩炎症の疾患概念はあまりわかりやすいものではありません。
その理由のひとつに最近数十年の間の分類病名の変遷が関係しています。

眼窩腫瘤形成病変の分類

1962年の眼病理の教科書では、眼窩原発の腫瘤の分類中に炎症性のinflammatory pseudotumorが記載されていて、これは本邦では眼窩炎性偽腫瘍と呼ばれていました。
その中からサルコイドーシスや感染など特異的炎症病態リンパ増殖性疾患が除外された残りが特発性眼窩炎症IOI: Idiopathic orbital inflammationとされました。https://meisha.info/archives/5007

IOIの典型病型と非典型病型

IOIの典型は、眼瞼腫脹や結膜浮腫充血を示す急性炎症病態で発症します。https://meisha.info/archives/5016
一方、2010年以後注目されるようになったIgG4関連眼疾患IgG4-RODリンパ増殖性疾患に含まれるとされていますが、特発性眼窩炎症の中でinsidiousな発症をする非典型病型の中にも含まれることが最近相次いて報告されてきています。
Aryasit O, Tiraset N, Preechawai P, et al.: IgG4-related disease in patients with idiopathic orbital inflammation. BMC Ophthalmol 21:356.2021
以下はそのような症例です。

症例:57/M

4カ月前に右眼周囲の違和感を自覚してS病院眼科を受診して抗アレルギー薬を処方されるも改善がないということで、同眼科を1か月前に再度受診しました。
その際、発赤や圧痛はないものの右上眼瞼の腫脹が目立ちCT検査にて右涙腺の腫大がみられたため、リンパ腫の疑いで大学眼科を紹介されました。

矯正視力は1.2/1.2と正常、右方視にて水平性の複視をわずかに自覚しました。
右眼瞼皮膚の腫脹円蓋部結膜下に腫大した涙腺が確認されます。

MRIにても両側の涙腺腫大(R>L)を確認して右涙腺部の生検手術を行いました。
眉毛部外側皮膚を切開して、眼窩上縁の骨縁から眼窩内にはいると、白色の充実性腫瘤が確認され、これを切りだして病理検査、遺伝子再構成検査、リンパ球表面抗原検査https://meisha.info/archives/2363(図右)に出しました。

病理検査報告:リンパ球、形質細胞の増殖とリンパ濾胞構造がみられ、一部に線維化がみられる。免疫染色にてT細胞系B細胞系が混在し軽鎖制限はなく、モノクローナルなリンパ球増殖は否定的。IgG陽性細胞の半数以上はIgG4陽性でIgG4関連疾患の可能性が高い。
またIG(H)JH遺伝子再構成検査https://meisha.info/archives/2398でも遺伝子再構成はみられず、悪性リンパ腫は否定的でした。
以上から臨床的に非典型の特発性眼窩炎症と考えられた本例の眼窩病変はIgG4関連眼疾患と診断されました。