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バイオレットライトとニューロプシン(Opn5)

屋外活動制限と近視進行抑制

近年アジア諸国の学童の間で近視が急激に増えているhttps://meisha.info/archives/1643主要原因のひとつは屋外活動時間の減少とされています。
実際に、学童の近視予防政策を進めてきた台湾では2010年以後、屋外活動を1日2時間以上確保する政策に変更しました。
その結果、裸眼視力で20/25(少数視力で0.8)以下の学童の割合が、図のように減少に転じ、屋外活動が近視を抑制する効果が実証されました。

屋外光に含まれるバイオレットライト(VL)

屋外で浴びる太陽光には波長360-400nmのバイオレットライト(VL)が豊富に含まれます。
しかしVLは通常の窓ガラスを通過せず、また人工の照明器具である蛍光灯やLED電球の光には含まれません。
https://meisha.info/archives/1652
そこで、日本でも問題視されている学童の近視進行の主要原因のひとつはVLの不足だとする考え方があります。
四倉絵理沙, 鳥居秀成: 屋外活動時間減少による近視の激増. あたらしい眼科 38: 501-507, 2021.
それでは屋外光に含まれるVLは眼球の中のあるいは体の中のどの細胞に作用するのでしょうか?

ヒトのオプシン遺伝子

杆体の視物質であるロドプシンを構成するオプシン蛋白は、ビタミンA由来のレチナールの光による構造変化を細胞内に伝えるGタンパク質共役受容体GPCR: G protein-coupled receptorです。

受容体であるロドプシンのリガンドは500nm付近の波長の光ですが、異なる波長の光をリガンドとする3種類のオプシンが錐体に発現していて異なる遺伝子でコードされています。https://meisha.info/archives/1727
これら視覚に関係するオプシンを含め、ヒトゲノムには合計9種類のオプシン遺伝子があり、それぞれリガンドとなる光の波長が図のように異なります。
山下高廣: G蛋白質共役受容体と紫外光受容蛋白質 紫外線をヒトは感じるか? 脳神経内科 94: 476-481, 2021.

メラノプシン(Opn4)、Rgr、Rrh 、Opn3、

このうちOpn4遺伝子でコードされるメラノプシンは、内因性光感受性網膜神経節細胞ipRGC: intrinsically photosensitive retinal ganglion cellに含まれて瞳孔反応概日リズムの光同調に関わっています。
Panda S et al.: Melanopsin is required for non-image-forming photic responses in blind mice. Science 301: 525-527, 2003.
Hattar S et al.: Melanopsin and rod-cone photoreceptive systems account for all major accessory visual functions in mice. Nature 424: 76-81, 2003.
石川均: 瞳孔とメラノプシンによる光受容. 日眼会誌 117: 246-269, 2013.

図には示していないRgr: retinal G-protein coupled receptorとRrh: retinal pigment epithelium-derived rhodopsin homologはともにall-trans retinalに結合してこれを11-cis retinalに変換するオプシン分子をコードします。
Chen P et al.: A photic visual cycle of rhodopsin regeneration is dependent on Rgr. Nat Genet 28: 256-260, 2001.
Nagata T et al: An all-trans-retinal-binding opsin peropsin as a potential dark-active and light-inactivated G protein-coupled receptor. Sci Rep 8: 3535, 2018.

またOpn3遺伝子がコードするオプシンは脳や脂肪組織で発現していますが目にはありません。

ニューロプシン(Opn5)

9種類のヒトオプシン分子のうち、Opn5遺伝子でコードされるニューロプシンは紫外線感受性オプシンで360nmの波長に吸収極大があり360-400nmのVLを吸収します。
波長1-400nm の紫外線のうち280nm以下の紫外線は角膜表面でブロックされ、それよりも長いUVAやUVBも大部分は角膜と水晶体で吸収されますが、1-2%は網膜に届くとされます。http://www.env.go.jp/chemi/matsigaisen2020/matsigaisen2020.pdf
最近、Opn5遺伝子は網膜神経節細胞の一部に発現しVLを吸収して近視進行を抑制することが報告されました。
Jiang X et al.: Violet light suppresses lens-induced myopia via neuropsin (OPN5) in mice. Proc Natl Acad Sci U S A 118, 2021.