• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

近視進行と調節ラグ

近年、世界的に、特に東アジア地域で子供の近視が増えています。https://meisha.info/archives/1643
大石寛人. 子どもの目が危ない.  43-48 (NHK出版新書, 2021).

近視進行の原因は眼軸延長

近視には角膜や水晶体の屈折力が増加する屈折性近視と角膜から網膜までの眼軸が伸びる軸性近視があります。https://meisha.info/archives/933
学童の近視進行の主因は軸性近視で、多くの動物実験や疫学研究の成果から、その促進因子抑制因子が明らかとなってきました。

屋外活動は近視進行の抑制因子

抑制因子として最も注目されているのが屋外活動です。
台湾では1日2時間以上の屋外活動を行うよう学童に奨励する政府プログラムによって、それまで増加の一途にあった近視人口が減少に転じました。https://meisha.info/archives/2046
屋外活動での近視抑制効果の主体は、照度1,000ルックス以上の光を浴びることです。
さらに光の波長に関して、360-400ナノメートルのバイオレットライトが重要であることが近年明らかとなっています。https://meisha.info/archives/1652

近業は近視進行の促進因子

一方、近視進行の促進因子には近業があります。
携帯型ゲーム機やマンガに目を近づけ過ぎると近視が進むとよく言われますが、どうしてでしょうか?

調節ラグ

子どもの目の調節力、すなわち水晶体を厚くして近くの対象からの光を網膜上にフォーカスさせる能力は十分あるので、https://meisha.info/archives/314ゲーム機に目を近づけてもピントを合わせることができます(下図下段左)。
しかしこれを持続すると疲労で調節が弱まりピントの合う位置が網膜の後方にズレる調節ラグによるぼやけを生じます(下図下段中央)。
眼球の成長が発達途上にある学童の目では、このぼやけを解消しようとするホメオスターシスが働くために、網膜を後方に移動させるように強膜のリモデリングを生じ (下図下段右) 、その結果、眼軸が延長すると考えられています。
長谷部 聡: 学童期の近視進行抑制に関するEBM. 日本眼科学会雑誌 124: 37-53, 2020.

なお、近視進行促進因子には、網膜周辺部でのぼやけである軸外収差も大きく関わっていますが、こちらは次回説明します。