複視を訴える患者さんの診察の前にヘス Hess 赤緑試験をオーダーする眼科医がいますが、これは正しくありません。https://meisha.info/archives/4621
複視の診療では患者さんが訴える像のズレが水平、上下、回旋のいずれの方向であるかを対座法でまず確認します。https://meisha.info/archives/4508
これは乱視や老視など[ニセの複視]https://meisha.info/archives/8を鑑別するためにも有用です。
その際、例えば上下と回旋が合わさったようなズレでは、棒状光源を使う赤ガラス法がお薦めです。https://meisha.info/archives/2457
さらに9方向眼位のどこでズレが最大になるかも確認します。https://meisha.info/archives/2461
以上を対座法で把握した上で、その結果をヘス赤緑試験https://meisha.info/archives/4608で確認記録するのが正道です。
ヘス赤緑試験の結果であるヘスチャートの解釈にあたっては、複視の原因となる眼球運動障害が片眼性か両眼性かで、難易度が大きく異なります。
片眼性ではヘスチャートに記録される[田の四角]の大きさが左右で異なり、小さい側の[田の四角]の最も大きく偏位している辺あるいは頂点が障害された眼球運動の方向を示します。
わかりやすい代表症例を図に示します。
左上の左眼、外転神経麻痺では左眼の[外直]と記される左辺が右に圧縮されています。
右上の左眼、核間麻痺では左眼の[内直]と記される右辺が左に圧縮されています。
眼球運動障害はこのような麻痺だけでなく拮抗筋の伸展障害のこともあります。
左下の左眼窩底骨折では左眼の下直筋が骨折部に挟み込まれて伸びないための上転障害なので上辺が下方に圧縮されています。
右下の右眼、滑車神経麻痺では右眼の[上斜]と記される左下頂点が上方に圧縮されています。
なお両眼性障害を示す重症筋無力症や甲状腺眼症では左右眼の眼球障害が複合されるために、ヘスチャートの解釈は複雑になります。